1999/11/21山崎長郎先生出版記念講演会in熊本

去る99年11月21日に熊本県立劇場にて山崎長郎先生新刊「複雑な審美補綴」出版記念講演会を開催いたしました。
ここでは簡単にレポートいたします。
募集パンフレットはこちら参照ください→

講師 山崎長郎先生（東京SJCD最高顧問、原宿デンタルオフィス）
日時 1999年11月21日（日）10:00〜16:00
会場 熊本県立劇場
費用 歯科医師20,000円、スタッフ10,000円
定員 300名
主催 熊本S.J.C.D.

講演する山崎長郎先生。
会場の模様。満席でした。
講演終了後、喫茶店にて反省会。

レビュー

　熊本S.J.C.D.発足記念として去る１１月２１日（日）、熊本県立劇場にて「審美修復治療・複雑な補綴のマネージメント」のタイトルで、山崎長郎先生（東京都渋谷区開業）による出版記念講演会が３００名以上の参加者を集めて開催された。添島正和熊本S.J.C.D.会長の開会の挨拶の後、すぐに講演に移った。ディソルブコントロールによる幻想的かつ荘厳な音響と、グローバルスタンダードを意味する地球のスライドでプロローグの幕が開き、聴衆は新しいプレゼンテーションに酔いしれた。術前術後のスライドをフェードイン・フェードアウトして重ね合わせるスライドショーがあたかも劇場の中にいるような錯覚におちいり、胸の高鳴りと鳥肌の立つような感動の中でのスタートであった。
　過去の機能優先の補綴治療から、顔面、歯列、歯の３つの審美バランスを考慮した現代の審美補綴治療の重要性や、マテリアルと手法の変遷について述べられた。

講演要旨

　講演要旨は以下の通りである。
　修復治療を成功させる臨床的基準として�@口唇及び歯が中心となる審美的要素、�A発育、�Bアンテリアガイダンス、ディスクルージョンなどの良好な機能維持、�C生物学的恒常性、�D組織の保存、�E歯肉レベル、�F歯のサイズなどがある。Ｅ音発音時の口唇と歯牙との調和、スマイルラインとの同調、パラファンクションなどへの注意深い観察が重要である。
　さらに包括的治療計画と補綴治療をマネージメントするには、Ｘ線所見、歯周組織所見、生態構造所見、機能所見、歯・顔貌の評価に対して分析し、基礎資料の収集、問題点列記、患者自身の希望条件などをより詳細に検討し、治療計画を立案する。
　補綴治療を成功に導く基本事項として、Ｘ線的評価、特にデントジンジバル・コンプレックス（歯−歯肉複合体）の解剖、病理学的理解が必要不可欠である。　また生物学的支台歯形成では前歯部隣接面に３．５ｍｍの臨床的歯冠長と切端部では２ｍｍの削除量を要する。フィニッシングラインをどこに設定するかは歯周−骨の関係をロウクレスト、ノーマルクレスト、ハイクレスト３つのタイプに分け、骨頂の位置を形成前に診査することにより決定され
　歯間乳頭の保存と再建は審美性に大きな影響を与えるが、それには矯正治療、歯周外科治療、補綴治療によるブラック・トライアングル消去法が考えられる。骨頂からプロキシマルコンタクトまで５ｍｍ以下（ターナーのリサーチ）の場合が、ブラック・トライアングルを作らない基準となる。ハーフポンティックは、歯槽提とポンティックの密着性、基底面の形態が凸面で可及的にオーベイト（卵円形）を有していることが条件であり、�@プレ・インプレッション・テクニック、�Aポスト・インプレッション・テクニック、�Bエステティック・エクストラクション・サイト、�Cリッジ・オーギュメンテーションなどのテクニックがあり、その際ブレンチングの消失の確認、フロステストを行う。また、歯−歯列と顔貌とのバランス、歯−歯肉−歯列−顔面
の調和が重要であり、審美クラウンへのアプローチとして、色調、カウントゥアーの決定、エマージェンス・アングル、トランジショナル・アングル、ラボコミュニケーション、フィニッシングライン、セメンテーションなどのマテリアルや手法について熟知しておく必要がある。２１世紀の審美歯科はオールセラミックスクラウン、ポーセレンベニア、コンポジットレジンなどが第一選択肢になる。
　最後に歯周補綴の６つの問題点には、インプラント、矯正医との連携について、�@歯列･顔貌との調和、�A生理的な歯周組織構造の回復、�B無髄歯の構造的な問題、�Cスプリンティング、�D歯列に負担をかけない咬合、�Eメインテナンスプログラムがなどある。これらに対して、プロビジョナル･レストレーションの活用、矯正力、ハーフポンティックの応用、適切なマージンの位置、歯根切除、根面被覆、生物学的幅径、フェルール効果、残存歯質、スプリンティングデザインとその必要性、力のコントロール、筋活性、マージンの適合とカウントゥア、継続的なメインテナンスなどに十分考慮して対処すべきであ
インプラント補綴においては、天然歯と比較して、結合様式と被圧変位量、神経筋機構、形状と形態の違いを考慮する必要がある。サージカルステントは必須となるが、補綴的な視点が優先するため、口腔内全体から慎重に立案した補綴設計によるインプラントの数及び埋入部位を決定し、正確にサージカルステントに移行することが鍵になる。審美性を得るための条件として、インプラントポジション、骨レベル、歯肉レベルなどがあり、歯肉形態のコントロールにはテンポラリー・ヒーリング・アバットメントの使用が有効である。アバットメントと上部構造の接続様式には、ネジ止めとセメント合着があるが、これらを比較すると、セメント合着の方がより誤差の補正ができ、セメント層による緩圧が可能になる。インプラント治療と成人矯正との連携
おいては、矯正医とのインターディシプリナリーが必要不可欠である。

まとめ

　修復治療の目的は�@審美�A機能�B構造�C生物学的恒常性と組織の保存である。
　咬合治療は不可逆的な処置という認識と、生体の持つ生物学的背景とメカニズムを充分把握しなければならない。
　複雑な補綴治療を要するケースでは、エンド、ペリオ、咬合、矯正、顎関節、補綴、審美などの歯科のすべての分野において、正確性が要求されるのは言うまでもない。万が一、一つでも不充分であれば、長期的なメインテナンス、患者のニーズに対応したとは言えない。これらをマネージするためには、総合的な治療計画と明確な治療ゴールの設定が必要不可欠であり、各専門分野と包括的に連携しながらのインターディシプリナリー･アプローチが重要であ

⇒今後の歯周補綴

インプラント治療と成人矯正との連携において⇒
インプラントを矯正の固定源として応用する際問題となる埋入部位は、かなりの正確さが要求される。その対処法として�@治療前の模型に治療後の状態をトランスファーするための基準点を正確に設けること（セット･アップ模型と現状模型の互換性、矯正治療に左右されない何らかの基準点）�Aセット・アップ模型どおりに矯正治療を成功させることであ
　今後の歯周補綴審美修復治療のあり方をベーシックからアドバンスまで多数の症例を提示され、我々に21世紀の方向性のヒントを与えていただいた近来まれに見る感動的な講演であった。ここに紙上を借りて、山崎長郎先生に熊本S.J.C.D.会員一同より感謝の意を申し上げます。

熊本S.J.C.D.会員　清水幹広