no.10 1999/07/24

title:夜の街の女たち

 ひところ毎晩のように出かけていた夜の街から遠ざかって久しい。数年前までは「おつきあい」と称して、それこそ月に40日余りは飲み歩いていたのではないだろうか。といっても自分の決まった店がある訳でもなく、いろいろなお客さんに連れて行かれた様々な寿司屋、スナック、クラブといったところを右往左往していただけのことであるが。

 最近ではさすがに忙しくなってきたのと、経費節減などの御題で以前のような夜の放浪を繰り返すことは希になってきた。
そうすると逆に「夜の街」の面白さ、可笑しさ、楽しさなどがくっきりと分かるようになってきたように思う。

 最近は不景気のせいなのか、地方のあまりぱっとしないクラブに行っても、結構美人の娘が出てきたりする。
特に地方においては企業の営業所や支店が撤退したおかげで、これまで受付やOLなどで雇われていた「地域一番」の美人達が大量放出され、かといってこのご時世にそれまでの所得を保証してくれる働き口などはそうそう見つからないといった結果、このような夜の街への流出が実現されているものと想像している。
などと硬く表現してみたが、要するに我々男にとっては、不況も悪いことばかりでは無い、ということである。

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 さて、はたして我々男どもは何を目的にこうも夜の街に繰り出すのであろうか?
もちろん十人十色の理由を持って、あるいは本人の自覚も無いままに、あるいは操られるがごとくさ迷い歩いているわけであろうが、なにがしかの理由付けといったものが必要な場合もある。そこで、ここではそのような事に着いて考えてみる。そして特に「夜の街の女たち」について考えてみることにする。

 その前に、昼間に仕事をせずに夜の街を徘徊する男、というものについて考えてみることとする。
いろいろ想像してみるが、そのような人種といえば、どうも次の4種類しか想像できないのである。
すなわち、1.金持ちの道楽息子、2.学生、3.本当のルンペン、4.夜の街で働いている男達、である。
彼らの夜の徘徊理由を考えてみると、1.アルコールへが好き、2.仲間うちで騒ぐのが好き、3.金を稼ぐためにそこにいる、という理由が主であり、「夜の街の女たち」への依存度が高いとは思えない。

 反対に、昼間仕事をしている集団、すなわちサラリーマンや公務員、経営者や自営業などの集団について考えてみると逆の傾向が見えてくるようである。
彼らはアルコールのみを必要としてそこに来ているわけではなく、むしろ仕事の延長として商談に来ていたり、あるいは仲間達とストレス発散に来ていたり、自分自身のリフレッシュのために通っていたりする。
そしてそこに始めて「夜の街の女たち」の登場する機会が出てくるのである。

 要するに、昼間に仕事を抱えている男達が夜の街の女たちを必要としているということが言えるように思う。

 商談の場において、極度に緊張した会食を続けた後、軽く飲みに行き、そこに機転の利く女性がいる、というケースは接待する側される側双方において素晴らしい結果を約束してくれるものだ。
 また、会社でのストレスを発散する時、カラオケのマイクを運んでくれて、笑顔で拍手をしてくれる女性が居てくれるだけで、すべての愚痴を言い切ってしまったような気になってしまう。
 それに、大きな仕事を終えて、一人でいつもの店に顔を出し、カウンター越しに謎めいた微笑を眺めながらグラスを傾けるだけで、仕事の満足感を倍増させる事ができる。
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 結論から言ってしまうと、夜の街の女たちは、「静脈」である

 目に見えない「経済」という馬鹿デカイ動脈からは昼間じゅう、これでもか、とばかり次から次に情報やらマネーやらが送り続けられている。そして我々男どもは、それらを一身に受け止め、小さな胃の中に貯め込み続けているのである。
そうこうしているうちに次第に胃の中は膨れ上がり、体中に伝播して身動きがつかなくなる。
動脈の末裔、すなわち末梢神経が迷走する組織の中で、自分の居場所が分からなくなり、コレステロールやら白血球やらが混ざった血液に自らが溺れ始めるのだ。

 そういう時に「静脈」を必要とするのだ。
演技でも良い、おシゴトでも良い、そんなことは承知の上でお札を財布に放り込み、夜の街へ直行だ。
そこで繰り広げられるほんの数時間、男どもははかない夢を見続け、酔いにまかせて家に帰ってからも、幸福な誤解を大切に名刺入れにしまいこみ、すべてお見通しの妻の前でも、秘密の隠し事を持ったという幻想を抱いて、明日からのエネルギーに変換するのだ。

 考えてみれば、なんと大変な作業であろうか!
女性諸君、男は大変なのだよ。

 もちろん、受け止める夜の街の女たちはもっと大変である。
わかってはいるつもりでもエロゲロオヤジ達の幻想に付合ってばかりいては、せっかくの美貌も台無しになってしまうであろう。
ただ、これが現在の日本経済なのである。経済の原則に打ち勝つ原則は今のところこの国には、ない。

 断っておくが、この文章における「男」と「女」はそっくり入れ替えてしまっても構わない。
最近では働く女性が夜の街の男達に同じような構図で接しているケースも多いと聞いている。

 私は夜の街は今でも大好きである。
世の中これまでいけいけどんどんばかりで突っ走ってきた。
その結果環境問題が露呈し、人間が生み出したものをどうやって自然に帰すか、がこれからのキーワードとなった。

 同じようなことをここでも感じることができる。
 これからは「静脈」を大切にする時代なのだ。

わかっていただけましたか?世の奥様方!

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