ご隠居	源さん
	いや〜、いよいよ連載が始まったね、ご隠居。なんか緊張するねぇ。
なに言ってるんだい。お前さんはね、ただあたしの言うことに「ふんふん」だの「ほうほう」だの相槌打ってりゃいいんだから楽なもんさね。何も心配はいらないよ。
	そりゃひどいや、ご隠居。あっしだって、その気になりゃあ、そこそこやるんですよ。
お前さんの「そこそこ」ってのも当てにならないからねぇ。
	ま、何にしてもあっしや、こんなボケ老人に自分ちの軒先貸そうかっていう太っ腹なourdentさんの為にも面白い話をしようじゃないですか。
誰もボケちゃいないよ。大体ね、「そこそこ」なんて言ってるはなっから、そんな事言ってちゃ先が思いやられるね。
	へ？あっし、何か変なこと言いました？？
知らないんなら教えといてやるけどね、今時、人様に向かって「太っ腹」なんて言葉使っちゃいけないよ。「太っ腹」って言うのはね、食い物に不自由していた時代のほめ言葉だ。皆がひもじい思いをしている時にも、お腹いっぱい食べることができた御大尽のかっ幅のよさに引っ掛けて、気前のいいことを太っ腹というんじゃないか。
	はあ。
今は逆だ。今の日本、金さえ出しゃあ、何だって好きなものが食える。いつの間にか出腹は食いものにだらしがねぇ証拠だって言うことになって、ダイエットなんてぇ物が流行っちまってるんじゃないか。
	ほう。
だから、金も暇もあるなんていう、リッチなご身分の連中は皆ダイエットにいそしんで腹がへっこんどるな。
	ほうほう。
ついでに教えといてやるけどね、英語のrichというのはただ単に「金持ち」って意味じゃないんだ。
	ふんふん
金も暇もあって、いつでも自分の好きなことができる結構なご身分の人間をrich manと言うな。
	ほお〜
日本語で言うと御大尽だ。な？今時の御大尽ってのは、せっせとダイエットして贅肉を落としてて腹がへっこんどるもんじゃ。だからの、今のこの国では「太っ腹」ではなく「痩せ腹」というのが正しい。
	いや・・・そりゃ変ですよ。「痩せ腹」なんか言った日にゃ、なんか情けないですよ。
お前さんが変だと言っても現に世間が出腹は駄目だと言ってる以上、「太っ腹」は、ほめ言葉にならん。それに現にほら、ワシも、ちゃ〜んとスリムな体型じゃろうが。
	ご隠居の場合、スリムってよか、やつれてるって感じですけどね。
まったく「ああ言えばこう言う」じゃの。お前さんではワシの相手は役不足じゃなぁ。
	ありゃ、ご隠居。ご隠居こそ、その言い方は間違いですぜ。「痩せ腹」なんてバカなことばっかり言ってるから、そんなことになるんですよ
何？わしのどこが間違えておる！
	「役不足」ってのはその人に与えられた役がその人の能力よりレベルが低いって意味でさぁ。よくドラマなんかで主人公が上司に向かって「私では役不足とおっしゃるんですか！」な〜んて言って食ってかかってるけど、あれは間違い。
ほうほう
	まったく逆の意味に使っちまってるんですな。「彼には課長は役不足だ」っていったら、「彼」は課長以上の器だってことでさ。
ふんふん
	ありゃま、ご隠居。どっちが「ふんふん」だの「ほうほう」だのいってるんですかね〜？
う・・・・お、お前さんを試してみただけじゃ。
	まったく、ご隠居の言う通り、こりゃ先が思いやられるなぁ。

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