ご隠居 |
源さん |
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いや〜、ご隠居、すごいもんですね〜。 |
なんだい、源さん。人んちに来るなり、藪から棒に。 |
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いやね、ほら、こないだのノーベル賞の授賞式。日本人で化学賞を受賞しちゃったえらい先生がいたでしょう。 |
ああ、白川教授のことじゃな。 |
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いや〜、すごいですね。なんでもプラスチックに電気を通しちまったとか・・・これからは、プラスチックでもピリッと来る世の中になるんですかね。 |
あのな、源さん。 |
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へえ。 |
お前さん、そんなこと、あんまり他で言うんじゃないよ。 |
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てえますと。 |
これからもなにも、今までだってプラスチックには電気は通っていたんじゃ。 |
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へ?でも、あの先生はプラスチックに電気を通して、あの賞を取ったんでしょ。 |
それはそうなんじゃがな、白川先生が電導性プラスチックを研究したのは20年以上前の話じゃ。 |
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ええ〜!?じゃあ、そのころから・・・。 |
電気は通っておった。 |
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はぁ〜、じゃ、なんで今頃。 |
昨今、実用化されて広く世間に普及し、多くの人たちの役に立つようになったからということじゃろう。 |
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へ?じゃあ、あっしらの周りに電気を通すプラスチックがもうあるんで? |
あるある。ただな、お前さんが心配していたような、プラスチックと言えばどれもこれも電気を通すとかそう言った話ではなくてな、 |
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へぇ |
ポリアセチレンというプラスチックに特殊な加工を施したものが、電気を通すんじゃな。 |
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特殊な加工と言いますと? |
ドーピングをするんじゃよ。 |
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ああ、毎食後にステロイドを。 |
こりゃ。それは、いけないスポーツ選手じゃ。 |
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じゃ、どうするんです? |
ポリアセチレンを作る時、微量に他の物質を混ぜるんじゃな。そうすると伝導率が大きく変わるらしい。 |
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なるほどねぇ。 |
それにな、ポリアセチレン自体が半導体の性質を持つからの、プラスチックが電気を通すと言う話になると、ポリアセチレンが初めて合成された1958年まで話は遡るな。 |
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はぁ〜、しかしノーベル賞ってのも随分と気の長い賞ですね。 |
白川先生も「自分の中では終わったものでした」とおっしゃってるしのぉ。 |
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でも、そんなえらい先生がいらっしゃるなんて、これまで聞いたこともなかったですよ。 |
そこが、実は難しいところなんじゃが、日本では特に「研究」や「研究者」に対する評価が、硬直的じゃな。 |
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てぇ言いますと。 |
いい研究を評価するシステムも支援するシステムも非常に脆弱・・・・まぁ、一言でいうと権威主義ということかの。 |
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はぁ〜、そんなもんすかね。 |
例えば、件の白川先生も、ノーベル賞を取ったからこそ、いちやく時の人じゃが、もし、賞から漏れておったら、世間的には、ほとんど無名のままじゃったろう。 |
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はぁ〜、なるほどねぇ。で、外人さんに言われてやっと騒ぎ出したと。 |
ま、世間一般はそれも仕方ないかもしれないが、国内の学会でも、ただの「いち研究者」だったわけじゃからな。 |
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てぇことはつまり・・・。 |
国内には優れた研究をちゃんと評価したり支援したりするシステムがない・・・・そう言われても仕方ないんじゃないかの。 |
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なるほどねぇ〜。 |
第一、何を研究するかすら、自分では選べないことが多いそうじゃからな。 |
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はぁ〜。 |
先生の電導性プラスチックの研究が飛躍的に進展したのも渡米後じゃしの。 |
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あ、そうなんで。 |
アメリカでは大学院生だろうがポストドッグだろうが、ちゃんと評価すべきは評価されておるし、支援する財団も豊富なんじゃ。 |
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わかりやした、ご隠居。 |
何だい? |
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ここはひとつ、あっしも海を渡ってみようかと・・・。 |
はあ? |
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いや、あっしも常々、この才能をこんなちっぽけな島国に閉じ込めておくのはどうかと思ってたんでさぁ。 |
おい、源さん、これ・・・・しっかりしな。何を言ってるんだい。それじゃ、学校生活に行き詰まってつい、現実逃避してしまった夢見がちな中学3年生男子と言ってることが変わんないよ。 |
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いや、しかしですね。 |
渡米して修行するのは聖子ちゃんの元亭主にまかしときゃいいんだよ。 |
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いやだぁ〜、あっしも行くんです。 |
う〜んこりゃ源さんの脳も白川先生にドーピングしてもらうかの。 |
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