ご隠居	源さん
	ちわ〜す。
おや、源さん、その格好は風呂帰りだね。
	へっへっ、その通りで。
もう日が暮れると冷えるんだからね、湯冷めしないように、気をつけなきゃいけないよ。
	また〜、年寄りはすぐこれなんだから。ちゃ〜んと、こうやって着込んでますから大丈夫でさ。
何が、ちゃ〜んとだい。おまえさん、一番肝心なところが抜けてるよ。
	へ？あっしゃ、たんぜんまで羽織ってるんですよ？
湯冷めってえとな、背筋がぶるぶるって来るもんだから、何か上から羽織ろうかってぇのも分からないじゃないが、それだけじゃだめなんじゃよ。
	はぁ〜、そうなんで。
お前さん、人間の体温てぇものがどこら辺から一番逃げていくか知ってるかい？
	え〜と、よく首のあたりを冷やすなって言いますが。
うむ、正解じゃ。
	なんだ、ご隠居、首筋だったら、あっしだって、ちゃ〜んとタオル巻いてるじゃないですか。
じゃが、３分の１だけ正解。残りあと２ヶ所あるんじゃよ。
	あと２ヶ所。
子どものころ、冬になるとはかせられていた物が、あったじゃろう。
	へ？・・・え〜と、ひょっとして、あれですかい、毛糸のパンツ。
うむ。２ヶ所目は太ももの内側じゃ。
	はぁ〜、毛糸のパンツですか。女の子のスカートをめくって、あれがのぞいた日にゃあ、がっかりしたもんで。
これこれ、違う話に向かっておるぞ。
	へ？あ、こりゃあっしとしたことが。
十分お前さんらしいわい。首と太もも内側というのは、太い血管が体表に露出している部位じゃからの、体温が奪われやすいんじゃ。
	じゃ、残り一箇所も太い血管を捜せば・・・・。
と、行きたい所じゃが、今度は逆じゃ。細い血管が走っている部位。
	細いんで？！でもそれじゃ、たいして影響ないんじゃ・・・・？
量の問題じゃな。そこには体表近く細い血管がびっしりとひき詰められて、さながら冷却装置のような構造になっておるんじゃよ。
	体表近く細い血管・・・・はっ？！ひょっとして。
そう、ひょっとして。
	むむ、なるほど。
そう、つまりな、頭部じゃ。
	へ？頭部？？
なんじゃ、お前さん、違うところを考えっておったのか。
	え、いや、ちょっと。
変な奴じゃな。何、顔を赤くしてるんだい。
	いや〜、面目ねぇ。
お前さん、くも膜って聞いたことあるだろ。
	くも膜下出血なら・・・・。
そうそう、そのくも膜じゃ。頭の表面のすぐ近くには細い血管が網の目のようにびっしり張り巡らされておっての
	はぁ〜、それをくもの巣に見立てて。
そう、くも膜じゃ。
	はぁ〜、なるほど、そりゃよく冷えそうだ。
さらにじゃ、ここは鈍感なもんで、寒さをあまり感じない。
	じゃ、知らない間に体が冷えちまうと・・・。
そうなんじゃ。しかも悪いことに、髪を洗ってよく拭いていなかったりすると、気化熱で体温を奪われてしまうからの、２重によく冷えるんじゃよ。
	はぁ〜。
じゃからの、湯冷めして、背中からぶるぶるっと来た時に、髪の毛を触ってごらん、冷たぁ〜くなっておるから。
	じゃ、上からもう一枚、羽織るより・・・・・。
そう、剥き出しの頭部を心配する方が先じゃ。おまえさんも、着込むのも結構じゃが、頭を冷やさないように気をつけなきゃいけないよ。
	なるほどねぇ。
ところでお前さん、さっきの答え、頭部じゃなくって、どこだと思ってたんだい？
	いやぁ〜、てっきりあっしは頭部ならぬ○頭部なのかと。
おいおい、ばかいっちゃいけないよ。
	だってご隠居が「体表近く細い血管がびっしりとひき詰められて」なんておっしゃるから
源さん〜、この連載、打ち切りになったらお前さんのせいじゃからなぁ〜。
	そりゃないっすよ、ご隠居。

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