テレビの影響により都会と地方の風俗の違いが非常に少なくなりましたが、一般的にファッションは中央から地方へ流れます。
近代歯科医療も、明治後期から当時の流行として中央から地方へ、特定の階層から庶民へと、急激に一般化の方向に進みました。特にその媒体となったのが歌舞伎役者たちであったと言われています。
舞台上でライトを浴びた人気役者の口もとから、キラリと光る黄金の歯が見えたとき、観客の心は、いやが上にも黄金の魅力に引き付けられたのに違いありません。その影響で前歯に黄金の冠をかぶせることが伊達歯(だてば)≠ニか愛矯歯≠ネどと言われて流行し始めるようになりました。
××県○○町に春市が開かれますが、わずか一日の休日を利用して近郷、あるいは近くの島々から集った参拝客が、歯科医院へ押しかけて、われもわれもと前歯に黄金の冠≠かぶせたそうです。
近代歯科医療が歌舞伎役者によって広まったことは心もとない気もしますが、事実この風潮は今でも残っていて、なんでもかんでも黄金の冠をかぶせることが絶対だと信じている人がまだまだ多いようです。